肝臓・胆道・膵臓の病気

肝炎

肝炎とは、なんらかの原因で肝臓に炎症がおこった状態をいいます。

肝臓を顕微鏡で見ると、正常な場合は血液の通り道である類洞に接して肝細胞が規則正しく並んでいます。ところが炎症がおこると、肝細胞の周囲に白血球系の細胞が入り込み、肝細胞が壊れます。この状態が1~2ヶ月以内で治るものを急性肝炎、6ヶ月以上続くものを慢性肝炎と分類します。

急性肝炎の場合、原因となる肝炎ウイルスに感染し、潜伏期の後、かぜに似た症状に続き、黄疸などの症状が急にに出現して肝炎と気がつきます。

慢性肝炎は、はっきりした症状がでないことが多く、検診などで見つかることがあり、定期的に健康診断(肝機能検査など)を受ける必要があります。肝臓は、食べ物から吸収した栄養素を貯蔵する倉庫の役割、その栄養素からからだに必要な成分をつくる工場の役割、不必要なものを胆汁に流してしまう排泄の役割、体内に入ってきた毒物や薬物を解毒する役割などを担っています。ところが肝炎がおこると、これらのはたらきが低下します。

とくに慢性肝炎が長びくと、これらのはたらきが徐々に低下し、肝臓の中に繊維がのびて肝細胞のかたまりを取り囲み、肝臓の構造をまったく変えてしまいます。これが肝硬変です。

 

肝硬変が進んだり、急激に大量の肝細胞が死んでしまう劇症肝炎では、肝臓のはたらきがたもてなくなって、肝不全という重篤な症状になります。

肝炎の原因

肝炎はいろいろな原因があります。日本でもっとも多いのは肝炎ウイルスに感染しておこるウイルス肝炎です。A型、B型、C型、D型、E型、G型があり、それぞれの型の肝炎ウイルスによってひきおこされます。

A型とE型はおもに食物を介して経口感染します。B型、C型、D型、G型は血液を介して感染し、慢性化することがあります。

どの型の肝炎も、場合によっては、劇症肝炎(急激に肝細胞が大量に破壊される重症の肝炎)をおこし、肝不全で亡くなることもまれにあります。

ただし、D型やE型肝炎の日本での発症はきわめて少なく、E型肝炎は蔓延地への旅行後に発症した例がまれに報告されるだけです。

その他にはアルコールの飲みすぎで肝機能が低下するアルコール性肝障害、毒物で肝臓が障害される中毒性肝障害、薬物が合わなくて肝臓が障害される薬剤性肝障害などがあります。

肝炎ウイルス

  • A型肝炎ウイルス
  • A型肝炎ウイルスは、下痢などをおこすウイルスに似ていて、RNA遺伝子をもった、直径27~28ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)の大きさのウイルスです。ピコナノウイルス属の一つです。

    A型肝炎は、感染者の糞便からでたA型肝炎ウイルスが、まわりまわって口から入って感染(経口感染)することで発症します。慢性化せず、急性肝炎をおこして1~2ヶ月で治ります。

  • B型肝炎ウイルス
  • B型肝炎ウイルスは、不完全な二重鎖のDNA遺伝子をもつ直径42ナノメートルのウイルスです。

    ウイルスのいちばん外側はHBs抗原というタンパク質でおおわれており、その中にHBc抗原やHBe抗原という別のタンパク質と、ウイルス遺伝子を完成させるDNAポリメラーゼという酵素などがあります。

    このウイルスに感染した人の血液中には、完全型デーン粒子と呼ばれるウイルス粒子(小型球形粒子や管状粒子)が見つかります。HBs抗原だけの粒子にはウイルス遺伝子が入っていないため、感染症はありません。

  • C型肝炎ウイルス
  • BC型肝炎ウイルスは、一本鎖RNA遺伝子をもった直径約55ナノメートルの粒子です。このウイルスの特徴は、ウイルス遺伝子がたびたび変異して、いちばん外側の表面抗原たんぱくが次々と変わってしまい、捉えどころがなくなってしまうことです。そのためからだの中で免疫反応がおこっても中和交代ができず、持続感染(ウイルスが消滅せず持続する)しやすいのです。

    中和抗体というのは、ウイルスの外側のタンパク質に対してできる抗体のことで、この抗体がしっかりはたらけば、ウイルスは破壊されてしまいます。

    A型肝炎ウイルスではHA抗体が、B型肝炎ウイルスではHBs抗体が中和抗体で、これらの抗体がからだの中にできれば、原則としてウイルスは消滅しますが、C型肝炎ウイルスでは中和抗体がきわめてできにくいのです。

  • その他の肝炎ウイルス
  • D型肝炎ウイルス(別名デルタウイルス)は、DNA遺伝子をもった単純なウイルスで、このウイルスは、いちばん外側の殻をB型肝炎ウイルスのたんぱくを借りてつくるため、B型肝炎ウイルスに感染している人でしか増殖されていません。日本ではほとんどみられません。

    E型肝炎ウイルスは、A型肝炎ウイルス同様経口感染します。このタイプも日本ではまれにしか見られません。

    G型肝炎ウイルスはC型肝炎ウイルスに近い種類と考えられていますが、中和抗体はしっかりできるようです。

母子感染

ウイルスをもつ母親から生まれた子供にウイルス感染が生ずることを母子感染といいます。B型感染ウイルスがその代表で、これは、胎児が産道を通って生まれるときに大量の母親の血液を浴びるためといわれています。

2~3歳ぐらいまでの子供も、免疫力がしっかりしていないために、感染するとキャリアになります。

母子感染は母親の血液中のウイルス量が多い場合におこります。B型肝炎ウイルスの場合、ウイルスの増殖が盛んになるとHBe抗原が出てきます。したがって、検査をしてHBe抗原が陽性である母親から生まれた子供はB型肝炎ウイルスキャリアになりやすいのです。

同様のことは、C型肝炎ウイルスでもいえます。母親の血中ウイルス量が多い場合、10%弱の割合で母子感染が成立することがわかってきました。

なお通常、父親から子供への感染はほとんどありません。

感染予防

母子感染予防するためには、子供を産む前に母親の血液中のウイルスをなくすか、量を減らすことです。そのためには、キャリアの母親は妊娠前に抗ウイルス療法を行い、ウイルスをなくすのが最善です。

B型肝炎ウイルスキャリアの女性が妊娠したときは、出産直後、子供に免疫グロブリンとB型肝炎ウイルスを接種する方法があります。これによってキャリアからの出生児のHBs抗原陽性率は、現在では0.1%以下に激減しています(以前は1%)。

C型肝炎ウイルスの場合は、ワクチンがないため、妊娠前にインターフェロン治療などの抗ウイルス療法を行なう以外、今のところ方法がありません。

日常生活の注意

B型とC型の肝炎ウイルスは血液から感染します。日常生活で簡単に他人に感染することはほとんどありませんが、ある程度の注意は必要です。

たとえば、ピアス、入れ墨、針治療などの際には、使い捨てか個人専用の器具を使いましょう。カミソリや歯ブラシの共用もお勧めできません。

B型肝炎ウイルスは性行為でも感染することがあります。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と同様、ウイルス感染症が蔓延している国や地域で現地の人や不特定多数の相手と性交渉をもつことは慎むべきです。

C型肝炎ウイルスの性行為による感染はほとんどないとおもわれます。

なお、ウイルスキャリアによる献血はできません。また、けがで出血した場合、その始末は自分で行なうなど、他人への感染に注意すべきです。