脳、脊髄、神経の病気
脳梗塞(脳軟化症)脳の動脈が閉塞する脳卒中
脳の動脈の内腔が途中でつまってしまい、その先へ血液が流れなくなる病気です。その動脈から血液の供給を受けている脳の部分が、酸素不足におちいって死んでしまい(壊死)、働きが低下したり、失われたりします。
この脳梗塞には、脳血栓(症)、脳塞栓(症)(心原性脳塞栓)、出血性脳梗塞という三つの病態があります。
脳血栓(症)
脳の動脈の動脈硬化が進むと、動脈の内腔が狭くなり、その部位に血流のよどみがでます。そのため、徐々に血栓(血液のかたまり)ができて、血栓が血管の内腔をつまらせてしまう(閉塞)のが脳血栓です。
最近では、症状、治療方針、予後などがちがうために、次の二つに分けられています。
- アテローム血栓性脳梗塞
- ラクナ梗塞
脳に酸素や栄養を運ぶ太い動脈(主幹動脈)の内腔に、血栓によって狭窄や閉塞がおこるもの。
脳の深部にある数百マイクロメートル(1マイクロメートルは1/1000の1ミリメートル)の細かい血管の閉塞がおこるもの。
脳血栓は、とくに高血圧や糖尿病が原因となっておこることが多く、その他、高脂血症、多血症、喫煙なども原因としてあげられます。
症状の特徴
よくみられる症状は、片側の顔面や舌のまひのためにろれつが回らない(講音障害)、同じ側の手足のまひや感覚の低下です。
アテローム血栓性脳梗塞では、これらの症状に加え、意識障害や失語、失行、失認、半盲などの高次機能障害がみられるのが特徴です。
これに比べてラクナ梗塞は意識障害は無く、講音障害、まひや感覚障害だけで、症状が軽いのが特徴です。
脳血栓は、睡眠中や起床時などの安静時に起こることが多く、数時間から数日、ときには一ヶ月にわたり時間を追ってゆるやかに段階的に症状が強くなってくるのが特徴です。(緩徐進行型)
脳塞栓(症)(心原性脳塞栓)
脳以外の部位に発生した血栓、細菌、腫瘍、脂肪。空気(の泡)などが血液中に流れてきて、脳の動脈にひっかかってつまらせるのが脳塞栓です。ほとんどが、心臓に発生した血栓などがはがれて、脳の動脈まで流れてきてひっかかるケース(心原性)です。
原因となる病気のなかでもっとも多いのは心房細動で、ほかに心臓弁膜症、心筋梗塞、洞機能不全、原発性心筋症などがあります。これらの病気のために心臓の働きが低下すると、心臓に血栓ができやすくなります。また、心臓内に細菌の感染病巣があると(細菌性心内膜炎)、細菌のかたまりがはがれて流れてくることもあります。
がんなどでからだが弱っている人は、血液が固まったり溶けたりするシステムに異常をきたし、心臓に血栓を含んだ異物のかたまりが発生しやすくなります(非細菌性血栓性心内膜炎)。この異物が流れて、脳動脈にひっかかり、脳塞栓をおこし、がんの存在がわかることもあります。
そのほか、外傷や骨折などで血管が切れ、そこから入りこんだ空気(の泡)や皮下脂肪が脳の動脈にひっかかることもあります。
症状の特徴
脳血栓と同じ症状が現われますが、脳血栓のように時間を追って症状が徐々に強くなってくること(緩徐進行型)は少なく、突然におこり、すぐに症状が現われる(突発完成型)のが特徴です。一般に、脳血栓よりも重症のことが多いものです。
出血性脳梗塞
脳梗塞をおこしても、つまった血栓が自然に溶けて、再び血液が流れ出すことがあります(再開通)。
脳の血管がつまっても、すぐに血栓が溶けて流れてしまえば、現れていた症状が劇的に良くなることもありますが、つまってから六時間以上たって再開通がおこると、閉塞されていた部位から先の動脈は、その間、血流が途絶えていたために障害を受け、血流が再開すると、弱った動脈壁から血液がにじみ出て脳の中に出血します。この状態を出血性脳梗塞といいます。
心原性脳梗塞が発症して数日後に多くみられます。
症状の特徴
落ち着いていた脳梗塞の病状が急に悪化したときは、出血性脳梗塞の可能性があります。しかし、症状が軽く、変わりがないこともあって、CT、MRI、脳血管撮影などをおこなわないと診断がつきません。
閉塞部位により症状はさまざま
脳に血液を供給している動脈系には、左右二本ずつの内頸動脈と椎骨動脈の二系統があります。内頸動脈は大脳半球に血液を供給している動脈系で、頭蓋内に入った後、前大脳動脈と中大脳動脈の二本の枝分かれします。
左右の椎骨動脈は、合わさって一本の脳低動脈となり小脳や脳幹部に血液を供給した後、枝分かれして大脳半球に入り後大脳動脈になります。
脳梗塞の症状は、これらの動脈系のどこがつまったかによって、さまざまにちがってきます。
内頸動脈のうち、脳梗塞がおこりやすいのは中大脳動脈で、前大脳動脈だけに梗塞がおこるのは比較的まれです。内頸動脈が閉塞したときは、
- つまった部分はどこか
- 閉塞が急激におこったか、叙々におこったか
- 障害されていない血管から、つまって血液の流れが悪くなった部位に血液を補給するルート(側副血行路)がどの程度発達しているか
により、症状がほとんど現われない場合から重篤な場合までさまざまです。
中大脳動脈のうち、脳の深部へ血液を供給している細い動脈(穿通枝)がつまったときは、つまった側とは反対側の顔面や手足のまひ、感覚や温痛覚障害がおこります。
脳の表面(皮質)に血液を供給している動脈(皮質枝)がおもにつまったときは、まひや感覚障害が出現しますが比較的軽く、障害された側の大脳半球の部位によって、さまざまな高次機能の異常が現われます。
ことばがでなかったり、会話の理解ができない失語症、やろうとしている動作や行為もわかっているのに行うことができない失行、日常使っているものやよく知っている人の顔がわからなかったり、つまった側と反対側の空間にあるものすべて無視する失認、字が読めない失読、字が書けない失書、障害された側と反対側の視野が見えなくなる視野障害(同名性半盲)などの症状が現れることがあります。
中大脳動脈の根もとがつまったときは、穿通枝も皮質枝もともに障害を受けることが多く、意識障害が強く出現して、脳が腫れ上がったり(脳浮腫)、死亡したり、後遺症が強く残ったりする場合もあります。
細い脳血管である穿通枝の梗塞は、ラクナ梗塞と呼ばれ、欧米人に比べて日本人に多く、予後は良好です。
一方、皮質枝にもおよぶ太い脳血管におこった脳血栓はアテローム血栓症脳梗塞といい、人種や食事の違いからか欧米に多く、予後はさまざまです。心原性脳梗塞は、皮質枝の梗塞が多く、脳血栓より重症のケースが少なくありません。
めまい、吐き気、嘔吐、頭痛、ろれつが回らない、飲み込みにくいなどの症状のほか、手足のまひ、力は入るのに手足が思いどおりに動かず、立ち上がれない失調症、動かそうと思わないのに手足がひとりでに動いてしまう不随意運動、口のまわりや手の先、半身の感覚が鈍くなったり過敏になる感覚障害、片側の視野が見えなくなる半盲などがおこります。
脳低動脈の広い範囲に梗塞がおこると(脳底動脈血栓症)、生命中枢のある脳幹部が障害され、意識障害に加えて両方の手足のまひがおこります(四肢まひ)。その後、呼吸症状が悪くなり、重篤な病状になります。
治療開始は早いほど効果的
症状に応じて、脳卒中一般の治療を行いますが、血栓を溶かす血栓溶解剤、血液を固まりにくくする抗凝固剤や抗血小板剤、脳のむくみをとり、血液の流れや脳の代謝を改善する脳圧降下剤、脳循環代謝改善剤などが使用されます。
脳梗塞おこった後、治療開始が早ければ早いほどよくなる確率が高いため、できるだけ早く、専門病院を受診することがたいせつです。