色々な癌

前立腺がんProstatic Cancer

前立腺がんは、前立腺肥大症と異なり、前立腺の、尿道からはなれた部分から発生するがんです。このため前立腺がんはある程度進行しないと排尿障害はおこりません。いいかえれば、排尿障害をともなうようになったときは、前立腺がんは少し進行していることになります。

前立腺がんは四十歳代から発生するといわれていますが、臨床的には五十歳代からみられ、年齢が進むにつれその程度が高くなる、典型的な高齢者のがんで、八割以上が六十五歳以上です。これは老齢になるにつれて女性ホルモンの分泌が少なくなり、性ホルモンの不均衡がおこるためといわれていますが、詳しくはわかりません。

欧米では、男性に発生するがんのうちでいちばん多いのが前立腺がんですが、日本ではまだそれほどではありません。しかし、日本の前立腺がんは急激に増加し、将来も増加の一途をたどると推測されています。

このがんは、初期にはあまり症状がなくても、放っておくと骨に移転して激しい痛みをともなうことが多いものです。高齢者が多いため、他の臓器のがんを合併する程度も高くなります。

前立腺がんになると、腫瘍マーカーといって、血液の中の特別な成分が増加することが古くから知られています。最近ではこの研究がさらに進み、非常に鋭敏なマーカーが開発され、前立腺がんの九割以上が異常値を示しています。

このため、老人健診などの際にはこのマーカーの検査から、前立腺がんが発見されることが多くなっています。

症状

3初期には痛みや排尿障害、血尿などの症状はなく、なんの症状もないのが特徴といえます。進行していくと、頻尿、排尿困難、残尿感、ついには尿閉などの排尿障害がおこります。さらに進行すると、移転による激しい骨の痛み、貧血や下肢のむくみなどがおこります。

検査と診断

発病の初期はまったく無症状で、五十歳以上になると発病する危険が高いがんですから、年に一回くらいは泌尿器科専門医の検査を定期的に受けることが大切です。またこの年齢になったら、チャンスがあればマーカーの検査を受けるようにしましょう。

経直腸触診といって、肛門から指を挿入して前立腺を触れてみる検査がありますが、熟達した専門医ならば非常に高率で、がんかどうかわかります。しかし、最近は触診でわからないような小さながんも増加しているので、触診、腫瘍マーカーや超音波検査の組み合わせで診断を進めていきます。

がんの存在が疑われるときは、前立腺の組織を一部採取して、がんかどうかを病理学的に調べる前立腺生検を行います。

これは直腸を介して、または会陰部から特殊な針を使って前立腺を採取するのが一般的で、通院でも行えますが、入院しての検査のほうがより確実で安全性が高いようです。また、経尿道的に前立腺を切断して病理学的検査を行う場合もあります。

がんの広がりや転移などを調べるために、排泄性尿路造影、尿道造影、超音波検査、CT、MRI、骨・腫瘍シンチグラフィー、骨レントゲン撮影などの画像診断が行われます。

****** 初期であれば手術療法も ******

治療

前立腺がんは、その広がりや年齢によって治療方法がちがいます。前立腺がんは男性ホルモン依存性のものが多く、抗男性ホルモン療法によってよくコントロールされることが古くから知られています。

早期で、比較的若い患者さんには、前立腺を摘出してしまう手術療法が行われます。また、放射線療法、がん化学療法も行われます。

どの治療方法を選択するかは、専門医とよく相談して決めてください。

手術療法

手術療法は、がんが前立腺の一部にとどまっていて、年齢の若い人に行います。

全身麻酔のもとで、被膜を含めた前立腺と性嚢線とすべてを摘出します。その後いったん切断した尿道と膀胱を縫い合わせ、転移を防ぐため、周囲のリンパ節をすべて摘出するリンパ節郭清も行います。

これらの操作骨盤内の深い部位で行うので、手術に5~6時間以上はかかり、輸血も2000ml以上必要になることもあります。

手術後は、体外へ尿を導くために、3~4週間カテーテルを尿道に入れておきます。最近は手術法が改良されていますが、5~10%の人に手術後尿失禁がおこります。尿失禁は2~3ヶ月で治る場合と、治らないで生涯続く場合とがあります。

抗男性ホルモン療法

前立腺がんは男性ホルモンに依存しているがんなので、男性ホルモンを体内で産生しないようにしたり、ホルモン剤を内服することで前立腺がんをコントロールすることが半世紀以上前から行われています。

坑男性ホルモン療法は、高齢者や、がんがかなり広がっている患者さん、移転のある患者さんに行われます。日本ではまだこのような前立腺がんが多いので、抗男性ホルモン療法が治療の中心になっています。

この治療方法では、まず去勢術を行います。これは男性ホルモンのおおもとである精巣(睾丸)を手術で摘出し、男性ホルモンをつくれなくする方法と、最近では、お注射によって精巣が男性ホルモンを産生しないようにする、化学的な去勢法とがあります。

女性ホルモンの内服は、手術的去勢術にあわせて用いられることが多いのですが、ときには単独で使われる場合もあります。女性ホルモンの内服では、まれに心臓に障害がおこることがあります。また、乳房が女性のように大きくなったり痛くなったりすることが、一時的にあります。

抗男性ホルモン療法では、前立腺がんが根治して消失してしまうことは少なく、がんの勢いを減弱して、症状をやわらげ、たとえがんが体内に存在しても、障害をおこさないで点寿を全うすることを目的としています。

移転のある患者さんでも、抗男性ホルモン療法によって長生きをされ、前立腺がん以外の原因で亡くなる人が多いのも事実です。

たとえ痛みなどの症状が消えたからといって、治療を中断すると、せっかく勢いの弱まったがんが、すぐにもとの勢いを取り戻して、再発したり移転したりします。

原因はわかりませんが、前立腺がんのなかには、抗男性ホルモン療法がまったく効かないものや、数年間よく効いていたのに効果がなくなってしまうというものもあります。担当の先生によく診てもらいながら、抗男性ホルモン療法を受けるようにしましょう。

放射線療法

放射線療法は、前立腺のある場所の照射する治療法ですが、これは、がんがある程度広がっていて移転(リンパ腺を含めて)の無い場合に用いられます。だいたい5~7週間照射を行います。通院でも放射線療法は可能ですが、入院して治療したほうが良いでしょう。昔はがんに効くだけの量の放射線を照射すると、非常に強い障害がおこりましたが、最近は改良され、障害は少なくなりました。抗男性ホルモン療法と併用するとより効果的です。

また、骨に移転があって痛みの激しいときには、痛みをとる目的で、移転した部位をめがけて放射線を照射しますが、これも効果的です。

がん化学療法

抗男性ホルモン療法がまったく効かなかったり、一時的に効いても効果が無くなった患者さんに、多数の抗がん剤を組み合わせてがん化学療法を長い期間をかけて(数ヶ月単位)行う場合があります。

副作用も相当強いですが、数年間も化学療法を続けている患者さんもいます。この治療には、放射線療法も併用されます。