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妊婦と薬

胎児・新生児への薬剤の影響

胎児・新生児に及ぼす薬剤の影響は

  1. 受精の可能性のある時期に男性に投与された薬剤の影響
  2. 受精前から妊娠までの3週末までに投与された薬剤の影響
  3. 妊娠4週~7週の末までに投与された薬剤の影響
  4. 妊娠8週~15週の末までに投与された薬剤の影響
  5. 妊娠16週から分娩までに投与された薬剤の影響
  6. 授乳期における薬剤の影響

にわけて考えることができます。

  1. 男性が使用した薬剤の影響
  2. 理論的には、薬剤の影響を受けた精子は受精能力を失うか受精してもその卵は着床しなかったり、妊娠早期に流産として消失する。出生にいたる可能性があるとすれば、染色体異常か遺伝子レベルの異常で、いわゆる催奇形もような形態的な異常は発生しない。また薬剤の影響があるとすれば、精子形成期間はおよそ74日とされるので、受精前約3ヶ月以内に投与された薬剤である。射精の直前にはすでに精子となって蓄えられているので、受精の1~2日前に服用した薬剤の影響はむしろ考えられない。

    精液には20%ぐらいまでの一見して形態的に奇形のある精子が含まれている。もともと、受精は数億個かの精子のうちの1個が選ばれる選択だから、たとえば薬剤で奇形精子が50%になったところで、あまり影響しないと考えられています。

  3. 受精前から妊娠3週末までの薬剤の影響
  4. 理論的には、受精前に薬剤の影響を受けた卵子は受精能力を失うか、受精してもその卵は着床しなかったり、早期流産として消失する。出生にいたる可能性があるとすれば、染色体異常か遺伝子レベルの異常で、いわゆる催奇形もような形態的な異常は発生しない。

    受精後2週間以内に影響を受けた場合、は着床しなかったり、流産して消失するか、あるいは完全に修復されて健児を出産する(all or noneの法則と呼ばれる)。受精後何日目から催奇形臨界期にはいるかは、サリドマイドの教訓が大いに役に立って明らかになった。正確に言えば、月経周期が28日型の人で月経初日から33日目くらいまでは安全である。すなわち、わかりやすいように妊娠3週末としてますが、本当はあと数日のゆとりがある。

    したがって、この時期の薬剤の投与にあたっては、胎児への影響を基本的に考慮する必要は無い。ただ、薬剤の残留性のある場合は注意が必要です。このような薬剤としては風疹生ワクチンなどがあげられる。しかし、風疹生ワクチンは生ワクチンであり、製法やロット番号により胎児に及ぼす影響が異なる可能性があるので、接種後2ヶ月は避妊するべきである。しかし、誤って投与された場合、このワクチンで先天性風疹症候群の児が生まれたとする明確な報告は無いので、挙児を希望していれば妊娠の継続を勧めるべきである。

  5. 妊娠4~7週末までの薬剤の影響
  6. 妊娠4~7週末までの時期は胎児の中枢神経、心臓、消火器、四肢などの重要臓器が発生・分化し、催奇形という意味では胎児がもっとも敏感な絶対過敏期になります。

    サリドマイドの服用時期とそれにともなって生じた奇形の間には明確な因果関係があり、最終月経から32日目以前、あるいは52日以降の服用では奇形は発生していない。しかし、胎芽・胎児の発育には相当の個体差がある。もちろん最終月経から胎齢を推定する方法そのものに問題があるのもあろう。しかしなお相当のばらつきがあり、これが絶対過敏期の後ろの限界をあいまいにしていることに注意しておく必要がある。

    この時期の薬剤の投与には十分慎重であったほうがよい。具体的にとくに注意しておくべきものとしては、ホルモン剤、ワーファリン、向神経薬などがある。

  7. 妊娠8~15週末までの薬剤の影響
  8. 胎児の重要な器官の形成は終わっているが、性器の分化や口蓋の閉鎖などはなお続いている。催奇形性という意味で薬剤に対する胎児の感受性は次第に低下するが、催奇形性のある薬剤の投与はなお慎重であったほうがよい。胎児の外陰部はアンドロゲンによって男性化する。妊娠8週を過ぎると睾丸からのアンドロゲンの分泌が認められ、これによって肛門生殖器間の距離の延長や陰唇隆起の癒合が始まり、妊娠11週にはおよそ外観で男女の区別が可能になり、妊娠12~14週頃には男性化が完成する。しかし、睾丸が陰嚢内に降下するのはさらに遅く、妊娠8~9ヶ月になってからである。よって、外性器からみると薬剤にたいする臨界期は相当に長い事になる。

  9. 妊娠16~分娩までの薬剤の影響
  10. 薬剤の投与によって、奇形のような形態的異常は形成されない。問題になるのは、胎児の機能的発育に及ぼす影響や発育の抑制、子宮内胎児死亡のほか、分娩直前にあっては新生児の適応障害や薬剤の離脱障害です。

  11. 授乳期における薬剤の影響
  12. 母乳中の薬剤の通過性は胎盤とほぼ同じと考えてよい。とくに生後1週間以内は新生児では薬物を代謝する能力が不十分であり脳・血管関門が完成していません。また、母乳中の濃度が低くても哺乳量が大量(500~1000ml)になるので注意する必要があります。しかし、子宮内とは異なり、児への移行は児の消化管を介してである。

    このように授乳中の薬剤の影響については子宮内とは異なった要因が働いており、薬剤別に個別に検討する必要があります。

    妊娠中と決定的に異なるのは、新生児に不都合な薬剤を投与する場合は授乳をやめればいいという点です。ただ、短期間の授乳中止はあまり問題がなくても、長期間になると事情が異なってくる場合もあります。