脳、脊髄、神経の病気

脊髄小脳変性症Spinocerebellar Degeneration

小脳、脳幹、脊髄に変性がおこり、四肢(両手足)と躯幹(胴体)の動きがぎこちなくなる運動失調が徐々に進行してくる病気で、色々な病型があります。

大きく分けて、遺伝性のものと、非遺伝性のものがありますが、遺伝性のものは、分子遺伝学の進歩によって、病因遺伝子の存在が徐々に明らかになり、病因遺伝子の存在する部位と病像の関係がはっきりしつつあります。

症状

運動失調は、まず、歩行失調(酔ったような不安は歩行)から始まり、ついで手仕事が困難になって、話し方が遅く、ことばが不明瞭になるなど症状が徐々に出現してきます。

病状によっては、さらにパーキンソン症状(筋肉のこわばり、震え、前かがみの姿勢など)、自律神経症状(排尿障害、インポテンス、起立性低血圧など)などが加わります。

進行は遅く、10~20年の経過をたどることもありますが、この病気で生命にかかわることは少ないものです。

  • オリーブ・橋・小脳萎縮症
  • 非遺伝性で、中年以降に歩行障害で発症し、上肢(腕)・言語の失調へと進行し、やがてパーキンソン症状や自律神経症状が高率に加わってきます。

    日本でもっとも多い脊髄小脳変性症のタイプです。

  • メンチェル型失調症
  • 遺伝性で、症状はオリーブ・橋・小脳萎縮症と同じです。

    やや若年から中年にかけて発症する型です。

  • 晩発性小脳皮質萎縮症
  • 非遺伝性で、症状は小脳性の運動失調が主体で、パーキンソン症状、自立神経症状はみられません。中年以降に発症します。

    アルコール中毒、抗てんかん薬中毒、悪性腫瘍の影響でおこる小脳性運動失調症などとの鑑別が必要です。

  • ホルムス型運動失調症
  • 遺伝性で、症状は晩発症小脳皮質萎縮症と同じですが、やや若年から中年にかけて発症します。

  • ジョセフ病
  • 遺伝性で、小脳性の運動失調の他に、深部反射亢進(腱をハンマーででたたいて筋を伸張させると、反射的に筋の収縮がおこる生理的現象の亢進)、バビンスキー徴候(足底の外側を指に向かってこすると親指が反り返る病的現象)、眼震(意思と関係なくおこる眼球の往復運動)、眼瞼下垂、眼球運動障害、パーキンソン病状、末梢神経障害などの多彩な症状の組み合わせがみられます。

    遺伝性の脊髄小脳変性症のなかでは、比較的頻度が高い型で、若年から中年にかけて発症します。

  • フリードライヒ運動失調症
  • 遺伝性で、脊髄小脳変性症のなかで、脊髄型の代表であり、脊髄の後索、脊髄小脳路などに病変があります。

    10歳前後の男児に多くみられ、歩行失調で始まりますが、目を閉じるとふらつきがひどくなるのが特徴です(ロンベルグ徴候)。ついで、手や口の動きのぎこちなさ、下肢(脚)の深部の筋肉の消失、四肢抹消(両手足の末端)の筋肉の脱力と萎縮がみられます。

    そのほか、フリードライヒ足と呼ばれる足の形態異常(凹足。足の裏のつちふまずのカーブが、通常より高くなる状態)や脊椎後弯、心臓病もともないます。

  • 遺伝性痙性まひ
  • 遺伝性で、脊髄の(側索)錐体路に変性おこる病気です。若い人に発症します。

    両下肢(両脚)の筋肉の緊張が高まり、突っ張った歩き方(痙性歩行)、深部反射亢進、バビンスキー微候がみられます。

    40~50歳代ごろには、痙性歩行と尖足(足の先が下を向いてしまう状態)のため歩行ができなくなります。このほか、眼振、溝語障害、排尿障害などを合併することもあります。

  • シャイ・ドレーガ症候群
  • 非遺伝性で、自律神経障害を中心とする脊髄小脳変性症です。中年に発生します。

    オリーブ・橋・小脳変性症に近い病変がみられます。

    軽いパーキンソン病状と運動失調が加わりますが、立ち上がったときの血圧降下がひどいのが特徴で、立ちくらみから失神をおこすほどです。

    大小便の失禁、発汗の減少もおこります。

    昇圧剤を内服し、下肢の血液貯留を防ぎ、脳血流を低下させない目的で、弾性ストッキングを使用します。

できるだけ自力で生活を

治療の担当は精神内科です。まだ特効薬はなく、症状を和らげるための薬の使用と、運動障害に対するリハビリテーションが治療の中心となっています。

厚生省の特定疾患に指定され、治療費は公費から補助されます。

できるだけ自力で生活するようにし、生きがいや楽しみを失わないことが必要です。